最近読んだ本:"Chasing the Flame" by Samantha Power2008/07/27 21:13

久々にこれは勧めたくなる!という本に出会いました。2003年のバグダッドでの国連爆破事件で亡くなった国連事務総長特別代表Sergio Vieira de Melloの伝記です。著者のSamantha Powerはオバマ大統領候補のキャンペーンで外交政策アドバイザーをしていたこともあるジャーナリスト。

あまり深く考えずにこの本を注文して、600ページ以上ある大著が届いた時には「うぁーこんなのいつ読み終われるんだか」と思ったのですが、読み始めると面白くて、ぐんぐんひきつけられて読みました。ものすごい数の人とのインタビューを元に書かれているだけあって、読んでいてすごい臨場感があるのです。Vieira de Melloが国連に入ってからの数々の国での仕事とそれぞれの場所で彼が抱えたジレンマが詳しく書かれています。レバノン、カンボジア、コソボ、東チモール、イラクなど今でも安定しているとは言いがたい国々で、安全保障理事会によって与えられたマンデートを元に、国連の役割を模索していく過程は、国連職員として働いていく上での何が大事なのかを改めて考えさせられます。彼はカンボジアやボスニアで戦犯として知られた人々に対して、彼らを阻害してしまったのでは、平和は維持できないとの思いから、親しい関係を保ち、それでかなり批判されたりもしたのですが、根本的なところで彼の国連憲章の理念に対するコミットメントはものすごいものがあります。最後の仕事となったイラクでのポストの任命も、本人は断りたかったらしいですが、事務総長にノーとは言えないと、引き受けたほど。全然ランクは違いますが、私も国連職員として国連憲章の理念は常に忘れずに、自分の仕事の基礎としたいと改めて思いました。

一つ、面白いなあと思ったのは、日本人のリーダーがあまりよく書かれていなかったこと。特に明石事務総長特別代表(カンボジアとバルカンでVieira de Melloの上司だった)のリーダーシップの弱さは強調されていました。私があぜんとしたのは、明石代表がカンボジアで国連平和維持軍の兵士たちが売春婦を買っているのが批判された時に、それを容認する発言をしたことです。国連平和維持軍に関するスキャンダルがいろいろとあった後の今では考えられないことですけど…。他にも彼の所謂政治的なセンスのなさがわかるエピソードがあり…。国連難民高等弁務官だった緒方貞子氏のことでさえ、あまりよくは書かれていませんでした。

それと個人的に興味深かったのは、自分の知り合いが本に出て来たこと。私の国連での始めての仕事場だったUNDPの緊急対応部の当時の部長Omar Bakhet氏がVieira de Melloの友達だったとか。彼が難民高等弁務官事務所で昔働いていたことさえ知りませんでした。それとスタッフ・カレッジの前ディレクターのde Mistura氏も出てきたし。やっぱりこの業界狭いです。

私が国連に入って7年目。賛美されることより批判されることの方が多いのが国連という気がしますが、それでもこの本を読んで、国連の意義、スタッフができること、するべきこと、等々改めて考えさせられ、確実にモチベーションが上がった気がします。国連職員であることを誇りに思えるような組織にできるよう、小さな1歩1歩が大切なんだと思います。

コメント

_ vodka ― 2008/07/29 01:18

おお、これは私も是非読んでみたいです。紹介ありがとう!
去年、かつての世銀の総裁Wolfenssonについての(やはりジャーナリストの書いた)本を読んでそれもページ数が多かったにも関わらず、はまったことがあります。その本も今のUNDPのAdministratorとか、それ以外にも何人か知り合いについて書いてあって、ますます興味をもって読みました。世銀のEvollutionについて学べて、面白かったよ。

_ りつ ― 2008/07/30 03:41

へぇー、その本も面白そうですね!題名を覚えていらっしゃったら、ぜひ教えて下さい!

_ vodka ― 2008/08/15 17:46

It's called "World's Banker", by Sebastian Mallaby. I really enjoyed reading it.

_ りつ ― 2008/08/24 17:21

ウォッカさん、ありがとうございます。早速ウィッシュ・リストに加えました!ほんとに面白そうですね。

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