最近読んだ本: 'The White Tiger' by Aravind Adiga2010/08/13 22:26

日本で産休中のウォッカさんのブログでも紹介されていたこの本。偶然、今回のバケーションの第1日目に泊まったホテルに置いてあったので、読み始めました。ウォッカさんとは読む本が偶然よく重なるのです!

お茶屋のカーストに属する貧しい家庭に生まれたインド人が、上層階級の主人のドライバーとして働き始め、主人を殺して金を奪い、さらには起業家として成功するまでの物語が、主人公から中国の首相への手紙というかたちで綴られています。内容はかなり壮絶で、フィクションとはいえ、インドの貧困層ってこんな暮らしで、こんな精神状況なんだろうなあ、というのが妙にリアルに感じられます。そして、文章がイギリスっぽいブラック・ユーモアに溢れていて、思わず笑ってしまう…。

この話の核となるのは、主人公が「鶏かご」(アジアの市場等で、生きた鶏が売られている時に入っている半円形のかごのこと)のようだと言っている、インド社会の特徴だと思います。つまり、インド人は生まれた時からカーストに縛られ、そこから出られないことを宿命として受け入れてしまっている。これには、家族との強い関係が影響していて、例えば、奴隷のような暮らしから1人が逃げ出した場合、その人の一族郎党が皆殺しにされる可能性がある、等。こういう閉塞感が、主人公をじりじりと追いつめ、主人を殺すところまでいってしまう訳ですが、その気持ちの変化がすごくよく描かれていると思いました。

そして、こういう閉塞感に関する記述を読んでいて、私がふと思ったのは「なんか日本に似てる」ということ。もちろん、日本にはいわゆるカースト制度はありませんが、私が日本にいた時に感じた閉塞感は、ある意味でこの「鶏かご」にとても似ていたと思うのです。周りにいる人の多くが、いろんなことをただ黙って受け入れることをよしとしている感じ。日本で数年暮らした外国人の友達に、日本にいて一番我慢ができなかったのは、「仕方がない」でいろいろなことを片付けてしまう人が多いということだ、と言われて妙に納得したこともありました。もちろん、そうじゃない人もいましたし、私が日本に住んでいたのは10年以上前なので、今は変わっているのかもしれませんが。

それはともあれ、ただ単に小説としても充分楽しめると思いますので、お勧めです。主人を殺すくだりなんて、本当に臨場感に溢れていて、どきどきしました!邦訳は『グローバリズム出づる処の殺人者より』という題で、文藝春秋から出ています。