最近読んだ本:"The Places in Between" by Rory Stewart2008/08/24 10:22

休暇中は、たまっていた読みたい本を読むチャンス、という訳で、これは休み中に読んだ本のうちの1冊。前述した私のメンターであるニュージーランド人のジュディスのお勧めで読み始めましたが、期待を裏切らない面白さで、一気に読めました。

筋書きを簡単に言えば、イギリス人の歴史学者である著者が、タリバン陥落後間もないアフガニスタンを冬の雪の中、ヘラート(イラン近く、西部にある町)から首都カブールまでを36日間かけて歩いて横断する過程を書いたものです。私は、普段は旅行記ってあまり読まないのです。というのも、旅行記って、著者が自分の印象を誇大解釈して、その地域や国を一般化して語ってることが多いような気がして。もちろん、そうでない本も多いと思いますが、私はついつい「私が同じような境遇にあったら、同じように思うだろうか?」と疑問に思ってしまい、話に入り込めないことがよくあります。でも、この本は違いました。著者のRoryのアフガニスタンに対する視線はとても謙虚で、しかも正直。村人の好奇心にうんざりしたり、危険な場面でまさに生き延びるために交渉したりする様子から、変にアフガニスタンを美化していないのがわかり、ひきつけられて読みました。

私がこの本で1番面白いと思ったのは、Roryの旅を通じてアフガニスタンの歴史と文化の複雑さを少しでも理解できたこと。カブールへ出張に行った時、アフガニスタン各地に5年も住んでいる国連職員に「アフガニスタンの魅力って何?」と聞いたところ「うーん、どこまでいっても理解できた!と思えない複雑さかなあ。数年アフガニスタンに住んで、沢山のアフガンと知り合って、そろそろこの国が理解できたか、と思う度にその気持ちを裏切るようなことに出会うんだよね。」と話してくれましたが、そんな彼女の気持ちが少しでも共有できたかも。ソ連侵攻、英米によるタリバン政権転覆という最近の歴史の複雑さに加えて、パシュトゥン、ハザラ、タジク、ウズベク等々、民族的にもとても複雑。Roryの旅した山岳地帯では、特に交通や通信の便が悪いため、様々な民族が孤立した状態で、まさに生き延びるためにいろいろな政治勢力と協力したり戦ったりしている。こういう状況で、アフガニスタンを一つの国としてまとめていくのは相当大変なことなんだなあ、と改めて思いました。

文化面の複雑さは特に興味深く、いくつもの国に支配された地域ならではの多様性がこの地域を文化的に豊かにしているんだろうと思いました。ジンギスカンの祖先だと言われ、アジア人の顔をした、少数派のイスラム教シーア派のハザラがいたり、歴史的には、バーミヤンの仏像に代表されるような仏教徒もいたり、さらにインドとの交流を通じて、ヒンズー教の影響もあったようだとか。Roryは、ウズベキスタン出身で、カブールからインドに入って、ムガール朝を気づいたバーブルが16世紀に同じヘラートからカブールまでを旅した時の記録を自分の旅と重ねていて、歴史的な視点から文化をみられるのも面白かったです。

開発という自分の仕事と関連したところでは、国連は直接批判されてはいなかったものの、この本の中ではあまりポジティブな印象はありませんでした。MSF(国境なき医師団)の方が、一番過酷な所まで入っていって援助をしているという印象。それから、後半のフットノートの所にちらりと書いてあった、植民地支配に関する記述は面白いと思いました。Roryは植民地支配に賛成している訳では全くありませんが、彼曰く、植民地時代に各国に駐留していた支配者たちには、明らかな責任があったということ。本国に対しては、植民地での経済活動で利益をあげて、歳入の面で貢献しないといけないし、そのためには、国内を政治的に安定させるために、現地の官僚等をトレーニングしないといけない。ほとんどの植民地支配者は、それぞれの赴任地で自分のキャリアを終える覚悟で、言葉や文化の勉強をしました。これに比べて、現代の開発復興援助というのは、誰も本当の意味では責任を持っていない、という状況だというのです。実際、カブール出張中も、いろいろなドナー国がアフガニスタン中のいろいろな地域でいろいろな分野での支援をしていて、調整のメカニズムが弱い、という話をよく聞きました。要するに皆が好き勝手なことをやっていて、全体像としてアフガニスタンをどういう国にしていくかというところでの戦略、調整がまだまだ弱いということです。普段、国連機関としての調整についての仕事をしている身として、考えさせられます。

まだ書きたいことはあるのですが、長くなったのでこの辺で。邦訳はまだ出ていないみたいです。この本を読んで、ますますアフガニスタンはもちろん、隣国のイラン、パキスタンについてももっと知りたいと思いました。

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